仙台高等裁判所秋田支部 昭和29年(ネ)124号 判決 1956年4月30日
控訴人(原告) 工藤竹雄
訴訟代理人 加藤定蔵 外一名
被控訴人(被告) 青森産業株式会社
訴訟代理人 竹田藤吉
主文
本件訴訟は昭和三十年十一月十四日控訴人の死亡により終了した。
事実
控訴人は被控訴会社の株主として、昭和二十六年十月二十五日なされたる被控訴会社臨時株主総会の決議は、総会招集の手続が法令に違反し且つ著しく不公正なるを以て、取消さるべきものなりと主張して昭和二十六年十一月二日右決議取消の訴を原裁判所に提起したが、昭和二十九年六月十六日請求棄却の判決を受けたので控訴をなし、当裁判所に於て審理中のところ、控訴人は昭和三十年十一月十四日死亡した。
ここに於て、被控訴会社代理人は、株主総会決議取消権は一身専属権なるを以て、控訴人の死亡により消滅し、本件訴訟は終局判決をまつことなく当然終了したるものであると主張し、之に対し控訴代理人は控訴人死亡の事実を認めながら、被控訴会社代理人の右主張を争い、株主総会決議取消権は一身専属権ではなく通常の財産権にして相続をなし得るものである。したがつて控訴人の相続人に於て右取消権を承継取得したるものであるから、本件訴訟は控訴人の死亡により終了するものではないと抗争した。
理由
按ずるに商法第二百四十七条第一項に規定する株主の株主総会決議取消権は株主が株主総会なる会社の機関たる地位に於て有する権利であるから、此の権利は当該決議のなされたる当時に於て株主たる資格を有せし株主に於てのみ能く之を行使し且つ維持し得るものにして所謂一身専属的性質を有し譲渡、相続等により移転し得ざるものと解するを相当とする。したがつて株主総会決議取消の訴を提起したる株主にして、その訴訟の繋属中死亡したるときは、その相続人に於て之を承継するに由なく、訴訟は対立当事者の一方を失い当然終了するに至るものと謂わねばならない。右と所見を異にする控訴代理人の主張には賛成しがたい。
されば、本件訴訟を提起したる控訴人が昭和三十年十一月十四日死亡したることは、当事者間に争なき事実であるから、本件訴訟は控訴人の死亡と共に当然終了したこと明白である。然るところ控訴代理人に於て之を争うを以て、此の点につき判断をなす要ありと認め、主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 浜辺信義 裁判官 兼築義春)